脂質異常症

「今回の健診では悪玉コレステロールが高いってチェックされている、知り合いは薬をのんでるらしいけど、飲んだほうがいいのかな。」と放置していいのか心配になります。
脂質異常症のなかで特に悪玉コレステロール、LDLコレステロールが高い方は、心筋梗塞のリスクが高い状態です。生活習慣の改善、投薬などの治療により、LDLコレステロールを下げる、リスクを下げることができます。
今回脂質異常症の症状や、原因、診断基準、改善方法、内服治療について説明します。

脂質異常症とは

食事

の値が基準値からずれた状態です。血液中の脂肪が増えすぎた状態で、血液の巡りが悪くなり、動脈硬化を起こします。動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)による死亡は、がんに次ぎ、死因の約26%を占めています。
以前は高脂血症と呼ばれておりましたが、善玉のHDLコレステロールは数値が低いほど悪いので、今では「脂質異常症」と呼ばれています。
動脈硬化の危険因子としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病(CKD)、喫煙、メタボリックシンドロームなどがあり、これらの危険因子が多いほど、動脈硬化性疾患が起こりやすくなります。脂質異常症は、動脈硬化性疾患のとくに強力な危険因子です。

脂質異常症の症状

脂質異常症だけでは特に症状がありません。脂質異常症を治療せずに放置すると、心筋梗塞、脳梗塞など重大な疾患になる可能性があります。

脂質異常症の原因

生活習慣

  • 食べ過ぎ、飲み過ぎ
  • 運動不足、肥満
  • 喫煙
  • ストレス

上記のような生活習慣が総合的に脂質異常症に関係するとされています。

遺伝子の異常

100人の1人程度の頻度が高い家族性複合型高脂質症と、200-500人に1人の家族性高コレステロール血症があります。家族性高コレステロール血症は極めて動脈硬化性疾患のリスクが高いです。

痩せている方の脂質異常症

BMIでは痩せている方で以前から脂質異常症を指摘されている方もおられます。生活習慣が悪いわけではなく、遺伝的な要素が脂質異常症の原因と思われます。

 脂質異常症の診断

原則として空腹時の採血を基準としています。LDLコレステロール140mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl以下、中性脂肪150mg/dl以上、Non-HDLコレステロール170mg/dlが脂質異常症にあたります。
このなかで、心筋梗塞に直結するLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が特に重要です。


脂質異常症の基準

脂質異常症の管理目標

個々の方の基礎疾患、背景によって冠動脈疾患のリスクも異なります。フローチャートに基づいて行われます。冠動脈疾患の既往歴があれば、再発予防のため厳重な管理が必要になります。
既往がなければ、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患があれば高リスクとなります。次に、吹田スコアによって低~高リスクに分類し、脂質管理目標値を決めます。
吹田ストアとは、冠動脈疾患と脳梗塞の既往歴がない大阪市吹田市住民5521名(男性2796名、女性2725名)を約12年追跡した研究から作成されたスコアで、管理目標、発症予測として使用されています。

管理目標年齢、性別、喫煙、血圧、HDLコレステロール、LDLコレステロール、耐糖能異常、家族歴から合計スコアを決定します。低リスクは10年以内の冠動脈疾患のリスクが2%未満ですが、高リスクは9%以上です。リスクが高いほど、厳格な管理が必要になります。冠動脈疾患発症予測のソフトが、アプリでも公開されております。

吹田式1

吹田式2

 脂質異常症の改善(治療)

食事療法

  • 肉の脂身、動物脂、乳製品の摂取を抑え、魚、大豆の摂取を増やす
  • 野菜、海藻、きのこの摂取を増やす
  • アルコールの過剰摂取を控える
  • 3食を規則的にとり、腹8分目にする

運動療法

運動ウォーキング以上の有酸素運動を、合計30分以上週に3回は行う。

薬物治療

LDLコレステロールが高い場合

第一選択薬はスタチンが推奨されています。肝臓に作用し、もっともLDLコレステロールを下げる作用が強いです。効果が十分でなければその増量もしくはエゼチミブとの併用が有効です。エゼチミブは小腸からコレステロールの吸収を下げる薬剤です。

中性脂肪が高い場合

中性脂肪は、LDLコレステロールほど明確な数値基準はありません。少なくとも500mg/dl以上の方は、急性すい炎のリスクが高いため、治療を行います。フィブラート系薬または選択的PPAR-αモジュレーター(ペマフィブラートを使用します。ペマフィブラートは、2018年に発売となった新規フィブラート系の薬剤です。TGの低下に加えて、HDL-Cを増加させる作用もあると報告されています。

脂質異常症(高脂血症)薬とジェネリック

当院ではジェネリックも選択可能な処方箋を積極的にお出ししております。いつも飲むおくすりの値段は安いほうがよいと考えております。ご自身が薬局で先発品か後発品か選んでいただくことが可能です。ジェネリックって大丈夫?と心配される方がおられますが、有効成分はまったく同じで添加物が少し違うだけです。また、全く成分が同じオーソライズド・ジェネリックがある薬剤もございます。

脂質異常症薬の副作用

スタチン:筋肉痛、脱力感がみられるのが約5%程度と言われています。横紋筋融解症は有名なのですが、0.01%程度と報告され、頻度が低い合併症です。子供の奇形のリスクがあり、妊娠中あるいは妊娠の可能性がある女性には使用できません。

脂質異常症薬の効果

脂質異常症では、特にLDLコレステロールを下げることで、動脈硬化性疾患の発症を抑制できることが報告されています。
我が国のMEGA研究では、LDLコレステロールが18%低下すると、冠動脈疾患は33%低下すると報告されています1)。欧米のメタ解析では、スタチンによる治療で、LDL-C約39mg/dlの低下ごとに主要冠動脈イベントは約24%、脳卒中イベントは約15%抑制され、脳出血には影響がないことが示されています2)
また、5年主要血管イベント発症リスクが10%未満の低リスクでも、血管死、全死亡が減少し、がん、血管以外の死亡の増加は認めませんでした3)。どんな方でもLDLコレステロールを下げると死亡率がさがるというすごいデータです。

1)Otsuka T et al. J Clin Lipidol. Jul-Aug 2017;11(4): 998-1006

2)CTT Collaboration. Lancet 2010; 376; 1670-80

3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators.The Lancet, Early Online Publication, 17 May 2012.

まとめ

医師

脂質異常症は、動脈硬化性疾患の危険因子の一つです。脂質異常症がある方は、生活習慣の改善や、薬剤治療が必要になります。LDLコレステロールは下げることで冠動脈疾患の発生だけでなく、死亡率まで下がります。当院ではそれぞれの方と相談しながら治療方針を決定しております。健診等でコレステロールが高いことを指摘された方は、放置せずに医療機関の受診をおすすめします。

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