腫瘍マーカーは健康診断で検査する意味がない?
― 知っておきたい正しい使い方と限界 ―
健康診断や人間ドックで
「念のため腫瘍マーカーも測っておきましょう」
と言われたことがある方は多いのではないでしょうか。
CEA、CA19-9、AFP、CA125、PSA などは、
比較的よく知られている腫瘍マーカーです。
しかし結論から言うと、多くの腫瘍マーカーは
“健康診断目的のがんスクリーニング”としては意味がありません。
この記事では、
• 腫瘍マーカーとは何か
• なぜ健康診断では役に立たないのか
• 例外としてPSAがなぜ有用なのか
を、医療知識のない方にもわかりやすく解説します。
腫瘍マーカーとは

腫瘍マーカーとは、がんがあるときに血液などで増えることがある物質の総称です。
重要なのは、
• がんがあっても上がらないことがある
• がんがなくても上がることがある
という点です。
つまり腫瘍マーカーは、
👉 「がんがある・ないを確定する検査」ではありません。
本来の役割は
- がん治療の効果判定
- 再発のチェック
といった、すでに診断がついている患者さんの経過観察です。
代表的な腫瘍マーカー

健康診断のオプション検査などで選択されることが多い代表的な腫瘍マーカーについて解説します。
CEA(消化管がんなど)
大腸がん・胃がんなどで上がることがありますが、
• 喫煙
• 炎症
• 良性疾患
でも上昇します。
早期がんでは正常なことが多く、健診には不向きです。
CA19-9(膵がん・胆道がんなど)
膵がんで有名ですが、
• 胆石
• 胆管炎
• 糖尿病
でも上昇します。
しかも、膵がんの早期発見にはほとんど役に立ちません。
AFP(肝細胞がん)
肝がんの腫瘍マーカーですが、
• 慢性肝炎
• 肝硬変
でも上がります。
肝がん検診では、超音波検査などの画像検査が中心です。
CA125(卵巣がんなど)
卵巣がんで使われますが、
• 月経
• 子宮内膜症
• 良性疾患
でも簡単に上昇します。
無症状の一般女性へのスクリーニングには有効性が証明されていません。
腫瘍マーカーの有効性(科学的に有効な場面)

腫瘍マーカーが科学的に有効とされるのは、
先ほども提示しましたが、主に次の場面です。
- がんと診断された後の治療効果判定
- 手術後の再発チェック
- すでに画像や病理で診断がついている場合の補助指標
つまり、
「がんがあるかどうかを調べる検査」ではなく、
「がんの経過を見る検査」
という位置づけです。
健康診断としての腫瘍マーカー

健康診断で腫瘍マーカーを測る最大の問題は、次の2点です。
① 偽陽性(がんではないのに異常値)
腫瘍マーカーはがん以外でも上がるため、
• 不必要な精密検査
• 強い不安
をまねきやすくなります。
不必要に不安になり、必要のない検査をうけることになるということです。
② 偽陰性(がんがあるのに正常)
もっと深刻なのがこちらです。
「腫瘍マーカーが正常だったから大丈夫」と思い込み、
本来受けるべき検査(便潜血検査・内視鏡など)を受けなくなる
というリスクがあります。
正常だとなんとなく安心するのが心情ですが、
腫瘍マーカーは、がんの早期発見ができる検査ではなく、
正常だと癌が否定できる検査でもありません。
これは、医療的には非常に問題です。
大腸がんのスクリーニングでいうと腫瘍マーカーのCEAより
便潜血検査のほうが圧倒的に有効です。
アメリカでは健康診断として腫瘍マーカーは測定はほぼ行われておりません。
前向きに一般集団で、死亡率を下げることが証明されていないからです。
残念ながら日本は制度が間に合っていないのが実情です。
PSAだけは例外
前立腺がんに対するPSA検査は例外です。
• 前向き研究で
• 前立腺がん死亡率を下げる可能性
が示されており、条件付きでスクリーニングとして認められています。
ただしPSAも万能ではなく、
年齢・値・経過を踏まえた慎重な判断が必要です。
まとめ

• 腫瘍マーカーは健康診断のがんスクリーニングには向いていない
• 多くは
o がんがあっても正常
o がんがなくても異常
になり得る
• 科学的に有効なのは
がん診断後の経過観察
• 健康診断として意味がある腫瘍マーカーは
PSA(前立腺がん)に限られる
がんを早期に見つけるために大切なのは、
• 便潜血検査
• 内視鏡検査
• 適切な画像検査
といった、有効性が証明された検査を正しく受けることです。
「なんとなく安心するため」の検査が、
かえって不安や見逃しにつながることもあります。
検査は多ければ良いのではなく、
正しい目的と根拠があるかが大切です。
院長 中谷行宏
私は内視鏡専門医として月200件以上の胃カメラ、大腸カメラ検査を行っています。
消化器病専門医としておなかの症状の方の診療を日々行っています。